相続Q&A
- Question
- 相続分の譲渡とはなんですか?
- Answer
相続人は、法律で定められた相続分を有しています。
これを「法定相続分」といいますが、各相続人は自己の相続分を遺産分割の前に第三者又は他の相続人に譲渡することができます(民905)。相続手続きから早く離脱したい場合や、早急に金銭が必要な場合、相続人全員が第三者に相続をさせたい場合などに相続分の譲渡が利用されます。
【相続分の譲渡 メニュー】
1 相続分の譲渡の効果
2 相続人の内の1人が第三者に相続分の譲渡をする場合
3 相続人全員が第三者に相続分の譲渡をする場合
4 相続分の譲渡と登記
5 相続分の譲渡をした場合の債務の取扱い
6 注意点相続分の譲渡の効果
相続分の譲渡をした場合、譲渡人は相続人の地位を失い、譲受人は代わりに相続人になります(譲受人が他の相続人の場合には相続割合が増えることになります)。
なお、相続分の譲渡の方式は特に定められていませんが、トラブルを防ぐために書面にすることが通常です。
相続分の譲渡が絡んだ相続登記では、譲渡証明書に印鑑証明書を添付して申請する必要があるので、必ず書面にします。
また、相続分の譲渡について遡及効を定めた規定はありませんが、譲受人に遺産分割協議への参加を認め、その遺産分割の効果は遡及することから、相続分の譲渡についても遡及効を肯定するのが相当という有力です。
さて、先ほども申し上げた通り、相続分を譲渡する相手は相続人でも第三者でも可能です。
もし、第三者に相続分を譲渡した場合には、当該第三者は相続人としての地位を有することになり、本来相続人ではないのにもかかわらず遺産分割協議に参加することができます。
なので、当該譲受人を遺産分割協議に参加させないでした協議は無効になります。
一方で、相続分を譲渡した相続人は相続人ではなくなるので、もはや遺産分割協議に参加することはできません。
※ なお、相続分の一部を譲渡できるかは現時点では学説上争いがあります。
相続人の内の1人が第三者に相続分の譲渡をする場合
相続分の譲渡は各相続人がそれぞれ自由にできます。
例えば、相続人ABCの3人の内、Aが第三者Zに相続分を譲渡した場合、Aは相続人としての地位を失い、代わりにZが相続人の地位を有することになり、ZBCで遺産分割協議を行うことになります。
但し、このような場合には、B又はCはZに対して、費用を償還することでその相続分を譲り受けることが可能です(民905第2項)。
相続人全員が第三者に相続分の譲渡をする場合
相続人ABCの全員が、第三者Zに相続分を譲渡した場合、相続人はZのみとなります。
つまり、相続財産は全てZが相続することになります。
相続分の譲渡と登記
遺産に不動産がある状態で相続分の譲渡をした場合、登記をどのように申請するかは様々なパターンが考えられます。。
相続人の内の1人が第三者に相続分を譲渡した場合
例えば、相続人ABの内、AがZに相続分を譲渡した場合、まずは①ABの法定相続分の相続登記をした上で、②「年月日相続分の贈与(売買)」を原因としてAからZへの持分移転登記を申請することになります。(質疑応答・登研728号243頁)
相続人の内の1人が第三者に相続分を譲渡した後に分割協議により第三者が相続する場合
また、相続人ABの内、AがZに相続分を譲渡し、さらにBとZで遺産分割協議を行いZが相続する旨の協議が成立した場合、①ABの法定相続分の相続登記を申請し、②「年月日相続分の贈与(売買)」を原因としてAからZへの持分全部移転登記を申請し、最後に③「年月日遺産分割」を原因としてBからZへの持分全部移転登記を申請することになります。
これについては、法定相続分の相続登記をした上で、第三者である譲受人へ直接移転登記ができるという考え方もありますが、消極に解されています。(登研744号125頁)
上記は一例です。
相続分の譲渡の相手方は相続人なのか、第三者なのか、法定相続分の登記をした後なのか前なのか等、その内容によって登記手続きが全て異なりますので、司法書士に相談することをおススメいたします。
相続分の譲渡をした場合の債務の取扱い
相続分の譲渡をした場合、相続した債務もそれに伴って譲渡されるのか(譲受人に債務が引き継がれるのか)、という問題ですが、債権者に対してそれを主張することはできないと考えられます。
債権者の同意がないまま、債務が他の者に移転するのは債権者の保護に欠けるとになるため、対内的には譲渡人から譲受人に債務は移転しますが、対外的には併存的債務引受の関係を有する、または履行の引き受けをしたという関係を有するなどの見解が多数です。
相続分の譲渡をすれば相続人としての地位を失いますが、債権者に対しては債務まで免れることはできないと考えるべきでしょう。
注意点
相続分を譲渡する際に、無償で譲渡するのか、有償で譲渡するのかによって、贈与税や譲渡所得税が発生します。
また、譲受人が法人の場合には有償無償問わず譲渡所得税が発生するなど、税金の問題が生じますので、税理士に税務のサポートをしてもらうのがよろしいかと思います。
(相続分の取戻権)
第905条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。